指輪やネックレス、ピアスやブレスレットなど、世の中にあるジュエリーは金属を溶かして型に流し込む「鋳造ちゅうぞう」でつくられたものがほとんどです。金属を丁寧に叩いて伸ばして鍛えながらつくる「鍛造たんぞう」の技術はジュエリー制作においては今や世界的にも珍しくなっています。

そんな「鍛造」の製法で効率よりも丈夫さや美しさを追及する職人の技を、なんと、まち歩きしながら気軽に覗ける場所があります。今回は織田家ゆかりの城下町、柏原商店街の一角にある、素材と製法にこだわり抜いたジュエリー工房「ピエール・エ・オクスタット」をご紹介します。

  

町屋を利用したアトリエを兼ねた店舗で、お店のモチーフ「タツノオトシゴ」が描かれた白い大きなのぼりが目印です。

ガラス扉を開けると、町屋の雰囲気が残る落ち着いた店内。暖色照明に照らされて、きらきらと輝くジュエリーたちがショーケースの中には並んでいます。美しく光るシルバーやプラチナ、ゴールドだけでなく色とりどりの大小さまざまな天然石をあしらった指輪やネックレス、可愛らしいモチーフのピアスなどに目を奪われます。

 

 

 

 

 

店内手前がジュエリーの販売、その奥はアトリエになっているので、購入だけでなくジュエリー制作の様子も伺えます。

 海を越えて伝える「鍛造」製法へのこだわり

こちら「ピエール・エ・オクスタット」では「鍛造」と呼ばれている、昔ながらの製法を用いています。鍛えた金属だけを使用して「丈夫でしっかり光るジュエリー」を1つ1つ丁寧にピエール・ジンマーマンさん・三柳竜子さんご夫妻、2人で制作しています。「鍛造」でのジュエリーづくりはまず地金を鍛えることから始まります。厚さ1㎝ほどある地金の塊をローラーに何度も通し、半分以下の薄さにしていきます。板状や線状へと伸ばして引っ張っていくうちに、硬くて密な、しっかりとした金属になるそうです。その板状や線状になったものを「切る」・「削る」・「叩く」・「押す」・「曲げる」・「ロウ付けする」といった工程を組み合わせてジュエリーを作っていくとのこと。

 

 

20世紀初頭のフランス・パリのジュエリー工房で使われていたローラーを使用

 【20世紀初頭のフランス・パリのジュエリー工房で使われていたローラーを使用】

 

そしてなにより驚くべき部分は、鍛造製のジュエリーは加工の跡を残した「手作り感」を残して仕上げてあるものが多いのですが、ここではあえてそれを感じさせないほど滑らかで美しい仕上がりを追及されています。とても硬い金属を加工する高度な技術が必要なことはもちろんなのですが「時間と熱意と根性が必要。綺麗に仕上げようという想いさえあれば機械で作るものよりも精密なものがつくれる。」と竜子さん。ここでのジュエリー作りの技術や精神は同業者にも驚かれる事が多いそう。そんな2人の熱意と丁寧な仕事ぶりが、断然仕上がりがきれいでシンプルであっても長く使えるジュエリーを作り上げることができるのです。

実際、手に取ってみるとずっしりと見た目以上の重量感。そして、洗練された輝きの中にはジュエリーの線が滑らかな事もあり、どことなく温かみを感じられる美しさがあります。

 

 

 素材や細部までこだわり抜く

 使用している天然石やパーツなど細かいところまで様々なこだわりを持ち、それぞれに徹底されています。天然石や真珠に関してはカットや磨きが美しいものだけを厳選して使用しています。

 

 

また、ネックレス等に使用する細かいチェーンはフランス製のものを仕入れ、ピアスのキャッチも古くからハイジュエリーに使われている、失くしにくいディスクキャッチシステムを。

「神は細部にまで宿る」とは言いますが、細部にこそ最大の注意を払い、全体の完成度を追及するというプロフェッショナリズムが伺えます。

 

 

それぞれの”特別”や”想い”を形に

お2人は柏原でお店を構える以前、カナダでジュエリー職人として過ごしていました。ピエールさんは父親の元で3代目ジュエリー職人として20年以上。竜子さんは学生時代からジュエリー職人への憧れの気持ちを胸に秘め、フランスへ語学留学で渡ったのちに、ピエールさんの父の「鍛造技術でのジュエリー作り」に惚れ込み、弟子入りしたそうです。

 

 

2022年より、ここ柏原にお店を構えて3年ほど。地元や関西圏など、遠方から足を運んでくださる方やリピーターのお客様も多くいらっしゃいます。

「そもそも超少量生産で1点1点作るので、お客様のご希望に合わせてセミオーダーやフルオーダーメイドといった対応をすることもごく自然に出来ますね。都会からちょっと離れた丹波で穴場的にやっているからこそ、1人1人に製法やこだわりについて説明する時間もしっかり持てますし、ちょうど良い、と思っています。」と竜子さん。

店内展示の販売だけでなく、オーダー品の受注も受けているので、そこを理由に来店される方もいらっしゃるようです。思い出の品をさらにお気に入りのデザインに作り変えることで、身近にいつも付けていただけるものに変えることが可能な場合もあるそうで、ぜひ、一度ご相談を。また繋ぎ目のない鍛造製品の指輪になれば、10年から20年経った指輪のサイズ変更も難なくできるのだとか。

 

 

「身に着けるジュエリーに特別な意味を与えられる方がいらっしゃる。そういった意味でもとても貴重な瞬間や印象的なシーンに立ち会うことが時々ある。」と、感慨深く話す竜子さん。

お客様それぞれのエピソードや想いがあり、それらをジュエリーという形で引継ぎ残す。単純に装飾品ではなく特別な依頼のお話を聞くとこちらまで胸が熱くなりました。

 

 

 

特別な想いの詰まったものや正統派のジュエリーだけでなく、普段使いしたくなる可愛らしいモチーフのものまで、日常を彩るアクセサリーとして幅広く対応しています。

ピアスも片方からでも依頼できるので、とても有難く嬉しくもあるポイント。

「ジュエリーデザイナーって言われるとあんまりピンとこないというか職人ですね。」と竜子さんが言われるように、妥協なくどのジュエリーにも真摯に向かっています。1つ1つ、丁寧に作り上げられた美しいジュエリーの数々や、とことんこだわり抜いた「鍛造ジュエリー作り」を伝えるピエールご夫妻には魅了されること間違いなしです。

鍛造でのジュエリー作りは金属を鍛えるという部分で、日本刀などの刀鍛冶に通ずるものがあります。柏原でアトリエを構える場所に選んだことは日本家屋や町屋に惹かれていたことや空き物件の兼ね合いなど偶然ではありますが、日本を代表する戦国武将のゆかりの地でもあるので、どことなく運命的な浪漫を感じずにはいられません。

 

  

「ジュエリーを購入したい方だけでなく職人さんもどんどん増えて欲しい。ぜひ、どなたでもお気軽にお立ち寄りください。」と竜子さん。

ジュエリー好きやジュエリー作りに興味がある方はもちろんですが、こだわりを追及した職人の世界をほんの少し覗いてみてはいかがでしょうか。

 

 

また、事前に予約をしておけば、溶接なしで地金から切り出して作るシンプルなリングを作るワークショップも体験可能、とのこと。

ピエール・エ・オクスタットのこだわりの製法の中核となる工程を知ってほしい、という思いから始められたそうです。

こちらもぜひ、ご興味のある方はお問い合わせ下さい。

 近隣にはレトロな雰囲気が素敵な路地やおしゃれなカフェなどもたくさんあります。ピエール・エ・オクスタットに訪れた際は、気の向くままにのんびりまち歩きがおすすめです。

 

 

「ピエール・エ・オクスタット」

住所:兵庫県丹波市柏原町柏原28-1

TEL : 0795-71-6454

営業時間:10:00-18:00

定休日:日・月 ※不定休あり・Instagramにてご確認ください

Instagram:@pierre_okustat

HP: https://pierre-okustat.com/

 

丹波市観光アンバサダーの新木宏典さんが紹介する丹波市の観光パンフレット「陽だまり丹波めぐり」掲載店舗

https://www.city.tamba.lg.jp/material/files/group/33/hidamaritambameguri_2025.pdf

私がレポート

稿
ほたる
女性
1980年代
県外から丹波市に移住、素敵な人達との出会いに心躍る日々。食べ歩き、文化体験、アウトドアなど、浅く広く興味があり、「とりあえずやってみる」がモットー。体験してみて感じた等身大の感想をレポートにしてお届け中。
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